大阪社保協FAX通信   1101号 2015.4.15

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大阪市解体・府への吸収で国保・介護・生活保護はどうなるか〜介護保険対策委員・日下部さん寄稿全文掲載。  

 統一地方選挙前半戦を終え、5月17日の「住民投票」まであと1カ月ほどとなりました。昨日から大阪市内では「説明会」も始まっています。

 この住民投票は「大阪都構想」の是非を問うものではなく、「大阪市を無くし5つの特別区に分割する」ことの是非を問うものです。

 では、大阪市がなくなったら、現在大阪市が運営している国保、介護保険、生活保護はどうなるのか?

  大阪社保協介護保険対策委員で現職公務員でもある日下部雅喜さんからその点についての非常に明快でわかりやすい寄稿がありましたので、全文以下掲載いたします。ぜひお読みください。

 

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大阪市解体・府への吸収で国保・介護・生活保護はどうなるか

はじめに

 大阪市を廃止して5つの「特別区」に解体し、大阪府に統合する「特別区設置協定書」(以下「協定書」)が実施されると、基礎自治体のもっとも大切にしなければならない住民の「いのちとくらし」にとってどうなのしょうか。自治体のもっとも基本的な仕事である国民健康保険と介護保険、そして生活保護について見てみることにします。

. 国民健康保険

(1)基礎的自治体の呈をなさない「特別事務組合共同処理」

国民健康保険は、被用者保険などの対象とならない人が加入する健康保険で「国民皆保険」の柱です。国民健康保険法では、その目的を「国民健康保険事業の健全な運営を確保し、もつて社会保障及び国民保健の向上に寄与する」(国民健康保険法第1条)とし、「市町村及び特別区は、この法律の定めることにより、国民健康保険を行うものとする。」(同第2条)と定めています。

市町村が運営し、必要な財源を公費負担とともに、国民健康保険料として住民から集め、医療給付を行っています。これは健診事業などとあいまって住民の健康を守る重要な仕事です。したがって、一部の例外を除きほとんどすべての市町村は国民健康保険を自前で運営しています。

「協定書」では、大阪市を解体することで、国民健康保険の運営者(保険者)である大阪市も消滅します。そうなれば、「特別区」が国民健康保険の保険者となるはずです。ところが、特別区単独では運営せず「特別区を構成団体とする一部事務組合」(仮称「大阪特別事務組合」)で事務処理を行うとしています。特別区の区役所・支所では、申請・届出などの窓口業務を行うだけになり、国民健康保険運営には、各特別区は責任をもちません。協定書ではその理由を「専門性の確保、サービスの実施に係る公平性及び効率性の確保をはかるため」と説明しています。

しかし、住民の「いのちと健康」にかかわるもっとも基本的な仕事である国民健康保険も自前で運営できない「特別区」とは、いったい何なのでしょうか。

「協定書」は、特別区について「中核市の要件を上回る35〜70万人の人口」にしたとして、現行の中核市以上の権限を持たせるかのような説明を行い、「住民に身近な業務は特別区が担う」としていますが、国民健康保険のような市町村の基礎的な事務すら単独で担えないのが実態です。保健事業や住民健診事業を連動させながら住民のいのちを守る仕事を自前でできない特別区は、たとえ規模が70万人であっても、基礎的自治体の呈をなしていないと言わざるを得ません。

東京都の23特別区は、国民健康保険はすべて単独で運営しています。大阪府内でも最小の自治体である千早赤阪村を含む全市町村が単独で国保を運営しています。このことからも、国保の「特別事務組合」運営がいかに異常なものかが分かります。この1点を見ても大阪市解体・特別区分割が住民のいのちや健康を守る役割を否定するものであることを物語っています。

 

(2)大阪市消滅とともに独自繰入消滅で国民健康保険料大幅引上げも

大阪市の国民健康保険には、市民の約3割にあたる約76万人が加入し、全国の政令指定都市では最も高い加入率となっています。国民健康保険はサラリーマンなどの被用者保険に加入できない人を対象としているため、自営業者とともに無職者や年金生活の高齢者などの低所得者を多く含みます。一方で医療を利用する人の割合が高いので、医療給付は多くかかります。

国民健康保険は、「公費5割・保険料5割」が原則ですが、低所得者の保険料は公費の負担で軽減しています。そして、多くの市町村は保険料を抑制するために、さらに独自に自治体の一般会計から国民健康保険会計へ任意の繰り入れを行っています。大阪市の国保加入者の1世帯当たりの平均所得は全国平均よりも低いため、大阪市は加入者の保険料を抑えるため任意に繰り入れをしており、2014年度は176億円を国保会計に繰り入れています。

大阪市が解体消滅し、5つの特別区からなる「特別事務組合」運営の国保となればどうなるでしょうか。特別事務組合の国保の財源は、特別区の負担金や国・府の支出金などです。大阪市が現在、国民健康保険料抑制のために支出している176億円の繰入金はどうなるかは「協定書」ではまったく書かれていません。この独自繰入金がなくなれば、国民健康保険料は一人当たり年間2万3千円以上の値上げとなることを、昨年10月の大阪市会で大阪市当局がみとめました。4人家族で年間10万円近く保険料があがることになります。

特別事務組合には、特別区の議会の権限は及ばないため、住民の要求は届きにくくなります。現在の大阪府が府内市町村の国保会計への独自繰入を解消させる方向で指導していることと合わせて考えると、大阪市消滅と同時にこの独自繰入も「消滅」してしまい、大幅な保険料引上げとなる危険性はとても高いと言わざるを得ません。

現在、大阪市では国保加入世帯のうち約80%が所得200万円以下の世帯です。そして加入世帯の24%が保険料を滞納しています。大阪市は高すぎる国民健康保険料が払えない滞納者に対し、保険証取り上げや無慈悲な取立て、預貯金の差し押さえなどが大きな問題となっています。国保料大幅引上げが住民のいのちと暮らしを大きく破壊することは目に見えています。

 

(3)国の「国保都道府県化」で“3重行政”の無責任国保へ

国は、社会保障改革の一環として、国民健康保険を市町村に代わって都道府県が財政運営の主体になる法案の国会提出・成立を狙っています。

その内容は、@国民健康保険の財政運営は都道府県が担う A都道府県は市町村に「分賦金」の納付を求め、市町村は「分賦金」を納めるのに必要な保険料率・額を定め住民から保険料を集める B都道府県は、市町村に「収納率目標」を設定。「標準保険料率」等を提示し、賦課・徴収を指導する C保険給付、資格管理、届出などは引き続き市町村が担う というようなものです。これは、市町村から国保の財政運営の責任・権限を取り上げ、保険料徴収強化に駆り立てる「住民いじめ」の国保への変質をもたらすものです。国保財政を都道府県運営にするのは、社会保障改革の中で「病床削減」など医療費抑制を都道府県に行わせることと一体のものです。

この「国保広域化」は、橋下徹が大阪府知事時代から、全国に先駆けて2010年から推進し、国保への一般会計繰入と独自減免廃止、統一保険料(大多数の市町村は大幅引上げ)をめざしていたものです。今回の国の「国保都道府県化」はかつての大阪府の構想とは少し違いますが、市町村国保を否定する点では同じ動きです。

この国の「国保の都道府県化」と、大阪市消滅・「国保の特別事務組合運営」が一緒になればどうなるでしょうか。

第1に、大阪府内全市町村の国保の財政運営は、大阪府に移ります。特別事務組合の国保も同様です。

第2に、大阪府は、「分賦金」を各市町村に求めます。特別事務組合も大阪府から「分賦金」を割り当てられます。

第3に、特別事務組合は、「分賦金」を納めるのに必要な保険料を決定しますが、国保の対住民の事務は「出先」である特別区の区役所等で行います。

住民から見れば、国保の「窓口」は区役所・支所。しかし、保険料を決めるのはその「上」にある特別事務組合。国保の財政運営はさらにその「上」の大阪府が決める。まさに3重行政で、住民の声はまったく届かないところで国保財政や保険料が決められ、管理統制と保険料取立だけが徹底して強化されるという事態になります。もっとも大切な「住民のいのちとくらし」はどこも責任をもたず、保険料取立てだけは徹底強化。まさに、無責任・無慈悲の3重行政の国保となります。

. 介護保険

(1)最高額の介護保険料、低所得者には国基準に上乗せした額を徴収

 大阪市の介護保険料(65歳以上の人の第1号保険料)は、大阪府内でも政令指定都市の中でも最高額でしたが、2015年度の改定では15%の引き上げで「基準月額6758円」と引き続き、最高額となりました。

 大阪市の高齢者は、低所得者が多く、住民税非課税世帯で年金収入が80万円以下の層が21.8%、生活保護受給者が10.7%と合わせて3割以上が、低収入・無収入の人です。ところが、大阪市は、非課税世帯・年金80万円以下の層の介護保険料を国基準では、基準額の0.5とすべきところをわざわざ0.56に設定してより多く保険料を徴収しています。

 そして、介護保険法改正で、低所得者の保険料がより軽減され、国基準で2015年〜16年度は「基準額の0.5→0.45、2017年度からは基準額の0.3」となります。しかし大阪市は、軽減幅を圧縮し「0.5」(2015年〜16年度)、「0.35」(2017年度)としました。もっとも所得の低い層から国基準に上乗せして保険料を課す大阪市の姿勢は到底許されるものではありません。

一方で、大阪市は、生活困窮者に対する独自減免を行い、単身の場合は年収150万円以下が対象となっています。

 

(2)要介護認定事務の民営化で大幅に遅れる認定

 介護保険では、要介護認定を受けない限り給付は1円も受けられません。そして市町村は要介護認定申請を受け付けてから「30日以内」に認定結果を通知しなければなりません。

 大阪市では、2012年から要介護認定事務を民間事業者に委託し、それまで各区で受け付けていた要介護認定申請を「認定事務センター」での郵送受け付けとし、認定事務をそこで一括して行うようにしました。そのため、要介護認定申請してから30日を過ぎても認定結果が出ず、50日以上も当たり前という状態となりました。市内の関係者からは「介護保険利用の入り口の要介護認定がこんなに遅いのは最悪の介護保険だ」と酷評される始末です。

 

(3)大阪市廃止で「特別事務組合」運営の介護保険に

 「協定書」では、大阪市消滅後は、国保と同様に介護保険も、「特別事務組合」運営で、各特別区は介護保険に責任を持たず、単なる「申請・届出」処理の出先となることになっています。大阪府内・全国政令市で最高額の介護保険料はそのまま引き継がれることになります。また、民営化され「最悪」と酷評される要介護認定の仕組みもそのままとなるでしょう。

 こうした悪いところは引き継ぎながら、大阪市が行っていた独自の保険料減免制度はどうなるでしょうか。大阪府内で唯一介護保険を自前で運営せず、「広域連合」で運営している「くすのき介護保険広域連合」(守口市・門真市・四条畷市)では、大阪府内で8割以上の市町村が独自減免を制度化し、近隣市も減免を実施しているにも関わらずかたくなに拒否しています。広域連合は議会はあるものの、住民から直接選挙されず、各市の議員の中から選ばれ、議会日程も1日ほどの会期で、住民の声がほとんど届かないためです。大阪市消滅と同時に大阪市の独自減免制度も消滅する危険性があります。

 

(4)維新・都構想と国保・介護保険の「単一化」

 大阪維新の会は、2011年の大阪府知事・大阪市長ダブル選挙で「保険制度の広域化 」なるものを「公約」していました。市町村でバラバラの国民健康保険や介護保険の保険料を大阪全体で「統一された保険料体系」にするという統一保険料構想です。

 大阪府は、国保については、国の「国保都道府県移管」を先取りした動きをしながら、介護保険については、独自の「広域化」構想を打ち上げました。2012年8月に大阪府は「介護保険広域化」研究会報告を公表。その内容は、現在市町村ごとの介護保険を「大阪府単一」の保険料とし、大多数の市町村は大幅引上げで、独自減免も全廃するというものでした。国に対しては法改正を求め、その中で「利用者負担3割」案まで示すという介護保険制度自体の改悪まで提言するものでした。これについては、反対運動と府内市町村の反発からいったん「撤回」されています。

 しかし、大阪市解体・特別区構想の今後の動向によっては、こうした維新の会の「国保・介護保険の単一化」なるものが再び浮上し、大阪市以外の府内市町村にも多大な害悪を与えかねません。

. 生活保護

(1)異常な生活保護攻撃の大阪市政

 大阪市の生活保護受給率は5.55%、全国平均1.7%を大きく上回りトップとなっています(2014年10月時点)。しかし、大阪市は橋下市長なってからこの生活保護利用者に対し、徹底した締め付けをおこなっています。保護人員は2012年1月から2013年2月までの1年間で472世帯減少しました。内容をみるとその異常さがよくわかります。高齢世帯は2531世帯増加した一方で「その他」世帯が3003世帯も減少しているのです。これは、働くことが可能な年齢層(16歳〜64歳)に対し、生活保護申請の拒否、違法な「助言指導」による申請却下、保護廃止などをあらゆる締め出しを行った結果と言えます。厚生労働省ですら「行きすぎ」と言わざるを得ない違法行為を数多く含んでいます。こうした異常な手口は、社保協が2014年に行った「大阪市生活保護全国調査団」の取り組みによって明らかになっています。さらに大阪市は、現金で支給すべき生活保護費を「プリペイドカード」で支給するなど、新たな締め付け策まで行おうとしています。

 

(2)大阪市解体・特別区でさらに悪くなる

 生活保護は、大阪市解体によって「特別区」が実施することになります。この点は国保や介護保険とは異なりますが、生活保護では財源上に新たな問題が発生します。

 大阪市の生活保護関係費は約2900億円ですが、このうち国が4分の3負担し、大阪市の負担分は4分の1です。市負担分は地方交付税交付金で補てんされますが、それでも実質的な市負担は約150億円程度が生じています。

 ところが、特別区になると地方交付税が直接特別区に入って来ず、「大阪府」にいったん受け入れて財政調整財源にします。したがって、各特別区は現在と同じ負担率に収まらない結果になります。

 こうした財政的制約が各特別区をして、これまで以上の生活保護の削減・抑制策に駆り立て、申請拒否や生活実態を無視した保護の打ち切りなどが横行する危険性があります。

 

おわりに

特別区の基礎自治体としての「住民のいのちと健康、くらしを守る」機能の面から、国民健康保険、介護保険、生活保護について、「協定書」と最近の大阪府・大阪市及び国の政策動向から、大阪市解体後の特別区の実態を予測しました。

本稿でみてきたように「機構」としての特別区がいかに住民生活を無視し、大きな被害をもたらすのであるかは明らかです。それと同時に、国の「社会保障改革」の下で進められるかつてない国民生活犠牲の政策推進と、それを先取りしさらに輪をかけた橋下維新政治の推進が、大阪市解体・特別区構想である以上、私たちの予想を上回る規模での国保・介護保険・生活保護の改悪が進行する危険性すらあります。

 大阪市において、この動きにストップをかけ、同時に橋下維新勢力に政治的審判を下すのは5月17日の住民投票での「反対」票です。

(大阪社保協 介護保険対策委員 日下部雅喜)