大阪社保協FAX通信   1022号 2012.12.18                                        

 

大阪府が「第二次国保広域化支援方針()」でやろうとてしてることは被保険者を苦しめることにしかならない。

大阪府は全国で最も「国保広域化」に熱心な自治体です。

2010年に策定された「大阪府広域化支援方針」(以下、「支援方針」)では現年度と過年度の収納率目標とどこにもない「メリット設定」というプラスポイント目標まで設定。さらに「赤字」解消についての取り組みも含めて大阪府が一方的に決めたポイントで加算減算し、大阪府特別調整交付金を配分するというやり方で市町村を縛ってきました。こうした大阪府に対するやり方については、特に小規模自治体からは去年、そして今年の自治体キャラバン行動で「不満」「反対意見」として担当者から率直に語られました。

 

  第二期(2013-2014年度)大阪府広域化支援方針策定にむけて研究会・ワーキンググループ開催

現在の支援方針は今年が最終年で、大阪府は次期支援方針策定にむけ725日に研究会を立上げました。「第一回研究会」資料はすでに大阪府ホームページにアップされています。

http://www.pref.osaka.jp/kokuho/kaikaku/h24_kouikika_kenkyu1.html

 

【研究会およびワーキンググループメンバー】下記の自治体の課長級が参加しています。

高槻市・寝屋川市・藤井寺市・高石市・阪南市・大阪市・島本町・熊取町・太子町・堺市・守口市・門真市・国保連・大阪府

 

【これまでの経過】

725日 第1回研究会

827日 第1回財政運営ワーキンググループ

      第1回標準設定ワーキンググループ

1012日第2回財政運営ワーキンググループ

      第2回標準設定ワーキンググループ

1112日と13

3回財政運営ワーキンググループ

      第3回標準設定ワーキンググループ

1220日 第2回研究会

 

  焦点は「保険財政共同安定化事業拠出金」算定方式

 

国保会計をめぐっては、2015(平成27)度から、保険給付費1円以上80万円未満の医療費は「都道府県保険財政共同安定化事業」(以下「共同安定化事業」)から交付されるようになります。共同安定化事業とは、簡単に言うと「市町村国保同士の助合い事業」のことで、現在はレセプト1件当30万円〜80万円の高額医療が共同安定化事業から交付されています。

「交付金」があれば当然「拠出金」があるわけで、大阪府では2009年度までは拠出金の算定方法は、被保険者割:医療費実績割=5050でしたが、支援方針により被保険者割:医療費実績割:所得割=502525とし、被保険者の所得が低いところに交付金が多く配分されるようになりました。

その結果、被保険者の人数が多く所得の低い自治体に多く交付されることになりました。2011年度実績でみると交付金―拠出金で大きく増えたのはやはり大阪市で14億円。交付金の方が多い自治体は府内で14自治体しかなく、拠出金の方が多い自治体が圧倒的に多くなります。これは、大阪市の被保険者数が大阪府全体の1/3と圧倒的に大きいため、大阪市への交付金が大きく増え、引き換えに割を食わなければならない自治体が多くなるためです。

 

2011年度共同安定化事業実績 大阪府資料

 

 

 

 保険者

2009年度課税標準額
一般分:単位千円

2009年度の各月末における被保険者数の計
一般被保険者数

所得割:被保割:実績割=25:50:25

2011財政拠出金
(実績額)

交付金-拠出金
(実績額)

1

大阪市

357,535,061

9,681,004

25,807,063,431

1,417,229,373

2

堺市

111,164,583

2,786,448

7,479,993,419

49,230,598

3

岸和田市

25,333,306

686,855

1,809,254,497

52,148,417

4

豊中市

58,763,332

1,277,764

3,555,546,505

70,672,657

5

池田市

15,420,594

314,107

863,302,974

110,697,237

6

吹田市

50,289,076

998,327

2,753,359,034

240,017,372

7

泉大津市

8,521,953

242,352

623,338,865

61,893,380

8

高槻市

51,911,531

1,095,142

3,018,266,106

133,678,223

9

貝塚市

10,411,527

273,378

781,347,280

218,328,361

10

守口市

20,808,643

550,374

1,440,273,619

84,402,176

11

枚方市

52,317,014

1,193,572

3,187,452,507

160,428,282

12

茨木市

40,100,851

769,460

2,180,808,245

139,226,367

13

八尾市

40,537,746

972,973

2,611,524,654

222,788,137

14

泉佐野市

11,797,100

329,337

877,111,951

148,424,912

15

富田林市

16,065,011

381,671

1,026,035,233

39,458,738

16

寝屋川市

33,611,660

851,593

2,192,318,120

139,633,059

17

河内長野市

17,123,300

352,230

965,109,164

144,479,234

18

松原市

18,609,410

491,419

1,288,117,110

10,636,616

19

大東市

18,046,081

459,169

1,198,261,140

252,293

20

和泉市

22,157,911

548,083

1,448,055,353

8,049,858

21

箕面市

21,553,082

402,194

1,132,857,022

112,253,650

22

柏原市

10,315,642

248,481

651,591,204

52,878,740

23

羽曳野市

17,393,630

419,334

1,101,252,944

120,735,584

24

門真市

19,536,071

531,705

1,373,420,256

88,669,858

25

摂津市

14,135,514

301,512

827,366,094

22,240,405

26

高石市

7,998,639

195,701

538,736,133

41,772,582

27

藤井寺市

9,113,902

223,719

577,391,053

40,956,504

28

東大阪市

73,645,737

1,839,141

4,962,048,158

45,466,262

29

泉南市

7,936,775

252,753

599,551,547

16,053,615

30

四條畷市

7,713,271

187,028

507,496,902

34,349,856

31

交野市

10,327,681

219,617

590,778,924

31,163,584

32

島本町

3,863,881

76,309

213,770,117

36,651,123

33

豊能町

4,097,755

69,935

198,725,799

47,346,318

34

能勢町

1,709,443

42,047

119,084,395

15,538,992

35

忠岡町

2,235,434

61,664

156,953,367

17,168,202

36

熊取町

6,024,959

134,905

362,346,738

49,833,507

37

田尻町

809,935

24,269

58,727,452

4,945,207

38

阪南市

7,608,088

188,967

495,219,689

27,899,902

39

岬町

2,533,392

65,587

181,433,496

45,239,197

40

太子町

2,013,141

45,261

123,218,988

8,333,596

41

河南町

2,725,405

55,347

156,469,467

30,095,564

42

千早赤阪村

1,034,210

21,649

60,097,609

12,555,247

43

大阪狭山市

8,342,581

178,793

483,789,794

28,484,225

 

  大阪府原案では算定方式を被保険者割:医療費実績割:所得割を5012.537.5にしようとしていたが・・・・・

 

118日に大阪府国保課を訪ね、これまでのワーキンググループ資料提供とレクチャーを受けました。そして大阪府がこの算定方式を被保険者割:医療費実績割:所得割=5012.537.5にしようとしていることが判明し非常に驚きました。

仮にこの算定方式でいけば、大阪市が一人勝ち状態になることは簡単に想像できます。

図らずも大阪府の試算でもそうなっており、2015年からの「1円から」の試算では、なんと大阪市に78億円も拠出金より多く交付されることとなり、その大阪市分を他の自治体が被ることになります。

今年の自治体キャラバン行動で、ある自治体の担当者は「大阪市のために我市の国保料を上げるなど、市民に説明しても納得していただけるはずがない」と発言していましたが、国保広域化とはまさに大規模自治体に小規模自治体が飲まれていくことに他ならないし、実際に2011年度の交付でマイナスとなったために保険料値上げに踏み切った自治体もあります。

さらに、実績割が小さくなれば、医療費を下げるための「特定健診」や「がん検診」などのインセンティブは一切働かなくなり、自治体がこうした保健事業に積極的に取り組まなくなることは明らかです。健診保健事業が縮小すれば、早期発見・早期治療ができず、結局医療費は増大することとなり、国保料値上げにつながります。

 

所得割:被保割:実績割=37.5:50:12.5での試算と所得・医療費大阪府資料

 

 

保険者

所得割:被保割:実績割=37.5:50:12.5

1人当たり所得

順位

1人当たり医療費

順位

30万〜80万円

1円〜

1

大阪市

1,940,742,073

7,840,928,926

443,179

36

8,597

6

2

堺市

8,506,593

422,394,582

478,737

29

8,235

9

3

岸和田市

78,978,279

7,097,819

442,597

37

8,227

10

4

豊中市

117,500,116

377,956,978

551,870

14

8,209

11

5

池田市

143,637,503

358,371,021

589,121

7

7,185

32

6

吹田市

360,994,364

1,082,123,771

604,480

5

7,047

37

7

泉大津市

70,701,185

134,473,778

421,962

41

7,822

17

8

高槻市

213,843,058

1,003,227,606

568,820

10

7,611

23

9

貝塚市

254,215,967

276,327,968

457,017

33

10,677

1

10

守口市

92,778,128

165,343,661

453,698

35

7,837

16

11

枚方市

228,682,018

940,408,168

525,988

17

7,290

29

12

茨木市

225,218,018

809,596,255

625,387

3

7,617

22

13

八尾市

237,086,532

391,701,629

499,966

19

7,881

13

14

泉佐野市

171,851,487

357,116,124

429,849

40

8,786

5

15

富田林市

31,965,328

83,000,436

505,095

18

7,847

15

16

寝屋川市

168,075,560

327,608,995

473,630

30

6,999

38

17

河内長野市

180,122,329

490,020,823

583,368

8

7,179

33

18

松原市

2,586,399

56,713,362

454,425

34

7,877

14

19

大東市

5,722,150

102,525,770

471,619

31

7,455

26

20

和泉市

16,467,788

113,817,881

485,136

26

7,621

21

21

箕面市

170,481,036

604,460,301

643,065

2

7,116

36

22

柏原市

63,594,861

126,975,178

498,178

20

7,169

34

23

羽曳野市

137,756,781

301,719,879

497,750

21

7,223

31

24

門真市

80,243,790

168,014,168

440,908

38

7,642

20

25

摂津市

43,539,363

226,392,288

562,585

12

7,570

24

26

高石市

48,180,222

18,594,068

490,461

23

8,863

4

27

藤井寺市

52,376,648

120,772,482

488,858

24

6,826

40

28

東大阪市

80,349,396

195,898,764

480,523

28

8,369

7

29

泉南市

15,630,427

11,458,978

376,816

43

6,166

43

30

四條畷市

33,046,266

97,142,691

494,895

22

8,318

8

31

交野市

53,128,778

152,794,661

564,310

11

6,893

39

32

島本町

44,570,661

112,498,136

607,616

4

7,516

25

33

豊能町

62,365,459

192,915,286

703,125

1

6,426

41

34

能勢町

18,732,997

836

487,866

25

9,858

2

35

忠岡町

16,856,805

15,613,595

435,022

39

7,286

30

36

熊取町

58,348,146

120,950,430

535,929

15

7,311

28

37

田尻町

4,696,088

7,311,003

400,479

42

6,349

42

38

阪南市

32,302,900

70,334,205

483,138

27

7,398

27

39

岬町

50,252,957

68,879,137

463,517

32

9,468

3

40

太子町

10,229,094

27,744,775

533,742

16

7,785

18

41

河南町

33,859,432

69,791,111

590,906

6

8,099

12

42

千早赤阪村

14,055,967

35,119,182

573,261

9

7,777

19

43

大阪狭山市

43,876,117

194,150,471

559,927

13

7,155

35

 

本日、大阪府国保課に確認したところ、20日の「第2回研究会」では、この拠出金算定方式は提案せず、「これまでどおりでいく」こととしたようです。

 

  大阪府がこの3年間やってきたこと。

 

この3年間、大阪府がやってきたことは一言でいえば、@収納率向上とA赤字解消の2点に集約されます。この点でいうと、一番大きな問題を抱えてきたのが大阪市で、この大阪市問題を解決するために大阪府特別調整交付金と共同安定化事業という2つのお金の流れ方を変えたといえるのではないでしょうか。

しかし、被保険者、住民の側から見ると、大阪市の国保料は一切下がってはいないし、収納率向上のための滞納処分は一層厳しく、「いのちよりもカネ」「国保で財産まで奪う」事態となっています。これは大阪市だけでなく、他の市町村も同じ状況です。

さらに、医療費削減のために健診・保健事業などの努力を長年積み重ねてきた北摂・豊能地域などは軒並みこれまでより交付金より拠出金が増え、「不本意ながら国保料を上げざるを得ない」事態となっています。

 

★大阪府に欠けているものの1つは被保険者目線

 

大阪府に最も欠けているのは、国保の主人公である被保険者目線が一切無いということです。その証拠にこの方針案に対するパブリックコメントは現時点で一切考えられていません。

国保被保険者にとってメリットのない広域化など何の意味もありません。被保険者にとってのメリットは、やはり@国保料の引き下げとA国保によっていのちが守られ健康が維持できることです。ましてや広域化によって、今よりも国保料が高止まりしたり、保険証が未交付となったり、医療にかかることができなくなるのであれば、まさにデメリットでしかありません。

断言できるのは、被保険者のメリット実現のために大阪府がすべきことは何なのかという視点が全くないことです。

 

★さらに欠けているのは市町村への配慮と支援〜調整すべき大阪府が一部の交付超過自治体という不公平を作ってどうするのか

 

この間の自治体キャラバン行動では全市町村の国保課長をはじめとする担当者から大阪府に対する数多くの不満を聞いてきました。その多くは市町村の努力や苦労をきちんと評価しないことや、意見を聞こうとしない大阪府の姿勢などです。

この「共同安定化事業」は市町村国保の拠出金のみで運営されているものであり、大阪府の財源は入っていません。それなのに、市町村の意見も聞かずに算定方法を決めるようなことがあれば、まさに「カネも出さないのに口をだす」ことに他なりません。

一方、「都道府県調整交付金」は地域の事情に応じ、都道府県の条例において配分方法を決定して交付するものです。その中でも特に1号交付金(普通調整交付金)は市町村間の格差等を是正するために交付するものなので、こちらで所得格差を十分に是正すべきです。

2015年度から医療費1円から共同安定化事業で交付することにより、拠出金の規模が増加したり、拠出超過と交付超過の傾向が変化し各市町村国保への財政影響が大きくなるため、今年度から都道府県調整交付金が給付額の9%と、これまでより2%増えました。

712日に厚生労働省から出されたガイドラインでは「都道府県が調整機能を発揮するように市町村の意見を十分に聴いて検討する必要がある」と明記されています。

つまり、都道府県の役割は「極端に超過にならないように調整する」ことなのに、大阪府自らが「一部の自治体だけ交付が増え殆どの自治体の拠出が増える」という不公平状態をつくるなど絶対にあってはならないのです。

 

 

国保用語 ひとことメモ

★保険財政共同安定化事業

現行ではレセプト1件あたり30万円以上80万円未満の保険給付費を都道府県下の国保から国保連合会に拠出させ給付する、いわば、国保同士で助け合う制度です。なお、2011年度の国保法改正で2015年度からは1円以上からとなりました。

★「医療費」と「給付費」との違い

医療費とは国保会計歳出全額です。給付費とは歳出の7割です。これは医療費のうち3割は自己負担のためです。実際には高額医療費があるため給付費は7割以上となります。

★都道府県調整交付金(2012年度から給付費等の9%、大阪府予算ベースで409億円)

@ 普通調整交付金に相当するもの(政令で1号交付金として考慮すべき事項を規定)

→ 地域の実情に応じて、都道府県内の市町村間の医療費水準や所得水準の格差を調整

A 特別調整交付金に相当するもの(政令で2号交付金として考慮すべき事項を規定)

→ 国民健康保険事業の運営の安定化に資する事業の実施状況その他国民健康保険の財政に影

響を与える特別な事情に応じて交付

    大阪府の場合、条例上は普通分6%、特別分3%となっていますが、2012年度の交付は特別分3%のうち2%を普通分として交付します。2013年度の交付は広域化支援方針における保険財政共同安定化事業のありかたを踏まえて検討することとなっています。 (平成24725日付 大阪府国保課長通知)