国保広域化の本当の狙いは(上)
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 後期高齢者医療制度の見直しが論議されています。この議論を通して急浮上しているのが、国保の広域化です。6月以来大阪府内の各自治体に社会福祉の充実を要望する2010年自治体キャラバンをすすめ、広域化の問題をとりあげてきた大阪社会保障推進協議会の寺内順子事務局長に書いてもらいました。

大都市ほど赤字小規模市町村にかぶせる
       国民健康保険 協会けんぽ 組合健保
被保険者 無職者・被用者等 主として中小企業のサラリーマン 主として大企業のサラリーマン
被保険者数
    (07年3月末)
4738万人 3594万人 3041万人
平均年齢 55.2歳 34.7歳 35歳
1世帯当たり年間所得 131万円 229万円 370万円

 現在、後期高齢者医療制度は75歳以上の高齢者を対象に都道府県広域連合が運営しています。同制度見直しの議論では、65歳以上または75歳以上の高齢者医療を都道府県単位の広域国保で運営するとし、市町村が運営している国保もいずれは広域運営で、という方向が出されています。
 厚生労働省国保課長は7月16日の静岡市での講演で「今回の高齢者医療制度改革は、市町村国保の広域化を進めるための大きなチャンスだ」とまで言い切っています。

国民の負担増
 2010年7月22日、大阪府の橋下徹府知事と16市町村の代表か国保広域化について協議しました。
 この協議では@市町村としては一般会計から国保会計への繰り入れをやめたい。自治体の条例減免も負担になっているA府知事がりーダーシップをとって広域化すれば、保険料があがる自治体も文句を言わないはずG各市町村の累積赤字は、それぞれが解消しなければ広域化は進まないC府内統一保険料の設定は国保法改正を待たなくてもできるので先行して進めるD一般会計の繰り入れ・減免なしで保険料試算を年内に行うーなどが話し合われました。この協議は広域化の狙いをわかりやすく示しました。
 後期高齢者医療制度の見直しも、「医療制度の一元化」という最終目的にむけての通通点とされます。「医療制度の一元化」とは、国保、組合健保(大企業が運営する健康保険)、そして協会けんぽ(旧政管健保。中小企業が加入する健康保険)などを一つにすること。これは結局、「給付と負担の公平化」の名で国民の負担を増やし、国と大企業の負担を軽減することになります。

財政安定には
 全国の市町村国保財政は、「平成20年度国民健康保険の財政状況等について(速報)」によると、全国1788市町村中赤字は812市町村で全体の45.4%。総赤字額は1024億円です。黒字の自治体は976市町村で54.6%。総黒字額は1116億円です。全国的には国保は黒字です。
 08年度(平成20年度)の全国国民健康保険会計収支は713億円の黒字。しかし、自治体の裁量による一般会計からの繰入金が3668億円あり、これがなければ実質的には2955億円の赤字となります。
 小規模自治体で国保を運営するから赤字となり、広域で運営すると財政が安定し黒字になるのか、というと現実はその逆です。分かりやすいのは大阪市国保の例です。
 大阪市の入□は266万人(大阪府の入□の30.2%)。日本で2番目に大きい政令市で、実質的な広域国保と言えます。
 08年度国保会計はざっと歳入3076億円、歳出3440億円で収支はマイナス364億円。歳入には大阪市の一般会計繰り入れ金172億円が入っています。
 こうした傾向は全国でも同様です。政令指定都市や中核市などの大規模国保ほど赤字であり、小規模国保、つまり町村国保のほとんどは黒字です。国保広域化というのは、実は大都市国保の困難さを他の小規模市町村がかぶるということなのです。
(つづく)
しんぶん赤旗 2010.9.28 付より転載
国保広域化の本当の狙いは(中)
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東京23区の自治体一般会計からの独自繰入金
   一般会計からの独自繰入金・一人当たり(円)
千代田区 13.336
中央区 26.258
港区 7.463
新宿区 35.796
文京区 44.796
台東区 33.413
墨田区 43.662
江東区 13.771
品川区 32.338
目黒区 25.289
大田区 23.791
世田谷区 18.069
渋谷区 19.348
中野区 29.654
杉並区 15.506
豊島区 21.482
北区 37.167
荒川区 48.142
板橋区 35.654
練馬区 23.547
足立区 45.198
葛飾区 39.748
江戸川区 41.335
保険料一気に値上げ 多くの自治体で
 市町村国保財政の困難の原因は、国保に対する国の負担(国庫負担)の大幅減によるものです。  
 国保は医療保険のセーフティーネットです。他の健康保険に入れない高齢者、病人など無職者、ワーキングプアなど低所得者などが多く加入しています。そのため財政的な基盤が弱く、国が大きく関与しなければ運営ができません。かつて国は、国保の総会計の最大58%を負担していました(1974年)。しかし、現在は24%程度にまで下がっています。一方、国庫負担減と反比例して国保料はうなぎ上りです。国保加入世帯の所得は他の医療保険に比べ著しく低いのに、最も高い保険科を強いられています。

メリットなし
政府・厚生労働省も与党民主党も「広域化するとスケールメリットがある」と口をそろえます。
 大阪社保協は、2010年6月末から現在も自治体キャラバン行動を展開中です。各市町村の国保課長に「スケールメリットとは具体的にはなんですか」と問いかけてきました。具体的にあげられたのは、人件費の削城とシステム改修費用の節約ぐらいです。
 国保が広域運営されれば、市町村の仕事は窓□での加入手続きと保険料の徴収ぐらいになるので人を減らすことができるというわけです。しかし、これは国保会計上、何の影響もありません。
 人件費は国保会計に計上されていないからです。システム改修も毎年あるわけでもありません。また都道府県で同一システムとなっても、ソフト開発費等が若干減る程度です。国保会計に対する影響はあまりありません。
 つまり、人件費もシステム改修費も一般会計上はメリットとなりますが、国保会計上は何のメリットもありません。
 国保会計の最大の支出は保険給付費です。都道府県単位になっても医療環境が変わる訳ではないので、医療費は下がらず広域化されても歳出は減りません。

膨大な補てん
 国保会計への一般会計からの繰り入れ(市町村の裁量で独自に繰り入れる)は全国の市町村が実施しています。とくにその金額が大きいのが東京都、神奈川県、埼玉県など首都圏の市町村です。(全国市町村国保会計データは大阪社保協ホームページに掲載)
 毎日新聞の08年度全国国保料調査結果では、47都道府県中、東京都の平均保険料が最下位でした。東京23区の国保料は統一保険料です。23区は特別区で区ごとに一般会計があり、国保特別会計があります。各区の平均所得も医療費総額も違っているのになぜ統一保険料が可能なのか。
 それは、低所得者の多い区は一般会計から膨大な繰り入れをして補てんし、国保料をより安くする努力をしているからです(表※国民健康保険事業状況報告書より大阪社保協作成)。同様に、現在一般会計からの繰り入れをしている市町村は国保が広域化されれば、そうしたこともなくなり、多くの自治体で保険料が一気に値上げになるのは明白です。       
(つづく)
しんぶん赤旗 2010.9.29 付より転載
国保広域化の本当の狙いは(下)
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住民の命守る仕事放棄につながる
 国民健康保険の広域化では、多くの自治体が抱えている国保会計の累積赤字も大きな問題となります。累積赤字解消の方法は国・都道府県が肩代わりをするか、市町村が一般会計で全額解消するか、保険料に上乗せして解消していくかの三つしか考えられません。

減免最低限に
 国はいまのところ考え方を示していません。都道府県も特別な措置を表明しているところはないといっていいでしょう。市町村が一般会計から繰り入れし、赤字解消するかといえば、財政難の自治体が多く、全額解消は無理。となれば、保険料に上乗せする公算が高いといわなければなりません。
 現在、市町村条例に基づいて実施しているさまざまな保険料減免制度は、最低限になる可能性大です。
 さらに、市町村の権限はなくなり、その業務は加入受付と徴収だけに限定されかねません。住民が役所の窓□で相談しても、ほとんど救済もできなくなるのは、現在の後期高齢者医療制度をみれば明らかです。
 がん検診など保健事業は一般会計予算で支出されています。大阪府内の市町村でも力の入れ具合はさまざまです。なぜ力をいれるのか。これに対する高槻市の回答は全国の市町村の本音だと思います。「高槻市は大学病院も多く、高度医療へのアクセスが非常によいが、一方で、医療費の高騰を招くことになるので早期発見・早期治療をすることによって医療費の圧縮をすることが重要だ」。この発言は、市町村国保と市町村の保健・健診事業がリンクしてい
るからであって国保が広域化されれば力が入らなくなるのは明らかです。

住民の顔見て
 市町村が、一般会計から繰り入れをし、さまざまな条例減免をしてきたのは、長年の地域住民の運動の成果です。住民の困難な状況を目の前にして動かざるをえなかった自治体の誠意ある決断のたまものです。市町村に権限があるからできたし、小規模運営だからこそ住民の顔が見えたのです。
 国保の広域化とは、市町村が住民のいのちを守る仕事を放棄することにつながります。
 市町村がいますべきことは、市民のいのちを守るために、都道府県とともに国に対して国民医療を守る責任を果たすよう求めることです。国保への国庫負担の大幅増を求め、特に高齢者・低所得者が多く加入している市町村こそ国の支援で、高すぎる国保料を早く解消する必要があります。
 そのためには、「国保の広域化は加入者を困難に陥らせる」ことを自治体に示し、広域化に反対する国民的共同のたたかいを地域でつくっていくことが必要です。
(おわり)
しんぶん赤旗 2010.9.30 付より転載
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