大阪社保協FAX通信   1102号 2015.5.11

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「医療改革一括法案」今週参議院審議入り〜衆議院ではほとんど審議もなく重大法案が可決。423日衆議院厚労委員会での寺内事務局長「意見陳述」全文紹介。

 国保都道府県単位化や入院給食値上げ、後期高齢者医療の低所得者保険料大幅値上げなどが盛り込まれた「医療改革一括法案」は423日衆議院厚生労働委員会参考人質疑が行われ、24日衆議院厚生労働委員会で可決、28日衆議院本会議で可決、参議院へ。今週参議院本会議で趣旨説明があり、来週にも参考人意見陳述、採決かといわれています。

 大阪社保協・寺内事務局長が23日に行った参考人意見陳述について以下、全文紹介します。

 

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衆議院 厚生労働委員会 参考人意見陳述

大阪社会保障推進協議会 事務局長 寺内順子

 

大阪社保協では、国民健康保険に関しては、毎年大阪府や府内43市町村の国保課長はじめ担当者と懇談をしたり独自に市町村調査を行っております。

無保険の子ども問題では、2008年私どもが行った自治体調査で大阪に無保険のこどもが2000人いることが判明し発信したことが端緒となり全国で大運動が起きマスコミや自治体も動き法改正が行われました。現在は18歳までの子どもたちが親の保険料の滞納に関係なく6ヶ月以上の国保証が発行され命が守られていることに国会議員の皆様方に厚く御礼申し上げたいと思います。

 

本日は国保の都道府県単位化により貧困がより拡大するという視点で反対意見をのべさせていただきたいと思います。

私が申し上げたいのは3点、@現在の国民健康保険料()は限界を超える高さであるという実態A都道府県単位化ではこの国保料(自治体数で言うと税が圧倒的に多いですが、人口では料が多いのでここでは国保料と表現します)は下がるどころか上がる可能性が高いという点B高すぎる国保料だから滞納が起こり無理やり徴収しようとしてさらに違法な差押えが起きるという点です。

 

1.    国保料はワーキングプア世帯にとって如何に高いか

現在の国民健康保険制度は1961年、昭和36年に「皆医療保険」つまり、国民全員が何らかの医療保険に加入することを義務化するため他の医療保険に入れない人たちが加入する医療保険制度として再編されました。当初から加入者は無職者・低所得者であり、保険料だけで運営することは不可能であったため、多くを国庫負担で賄うことを条件とした制度設計でスタートしたという歴史があります。もともと国保収入の70%あった国庫負担が1984年を境に低下し、現在は23%程度しかなく、都道府県支出金をあわせても30%しかありません。減らされた国庫負担の穴埋めのために市区町村が一般会計法定外繰入をするのは当たり前のことで、それでも市区町村の負担は全体の6%もなく、介護保険の12.5%の半分にもならないことを指摘しておきたいと思います。

さて、現在の国保加入者ですが、世帯主の職業は被用者(労働者)35%です。いわゆるフルで働いていても非正規雇用、そしてパート・アルバイトの人たちです。加入世帯の平均所得は112万円しかなく、平成21年から25年の5年間で世帯所得は17万円も下がっています。

 ここでは典型的なワーキングプアであるシングルマザー世帯の国保料の高さについて述べたいと思います。シングルマザー世帯は「平成23年度母子世帯等調査」によると123.8万世帯、現在はさらに増加しています。

 大阪市が昨年実施した「平成25年度大阪市ひとり親家庭実態調査」によると、大阪市のシングルマザーの平均総収入は184万円で平均的なシングルマザー世帯は母親40歳未成年の子ども2人の3人世帯です。シングルマザーの8割は働いており、保険証がないと自治体が実施している「ひとり親世帯医療費助成」を使えないので必ず国保に加入をしています。なお、収入184万円は所得では約110万円、国保の平均世帯所得に一致するので、国保に加入している現役世代の平均的な姿だと思ってください。

収入184万円所得110万円の大阪市のシングルマザー世帯の平成26年度国保料は年間22万円円。さらに国民年金保険料が年間187千円。社会保険料だけで約40万円、収入の約22%。他の政令市で計算しても札幌市は215千円、横浜市は215千円、京都市で22万円とほぼ同額です。

大都市のシングルマザー世帯のほとんどは賃貸マンションに住んでおり、大阪市であれば家賃は月6万円は必要、社会保険料と家賃で112万円を超え、残りは72万円・月6万しか残らず、その中から光熱費や様々なお金を払えば家族3人の生活費は一日1000円もありません。どんな生活なのか、何を食べて暮らしているのか、想像できるでしょうか。12食、1食は学校給食、もう1食はご飯とふりかけという子どもたちがたくさんいるのです。

高すぎる国保料が貧困世帯をより貧困にしていることとあわせ、年金保険料など払えるはずもなく、将来にわたって貧困を連鎖させていることを指摘せざるを得ません。食べるものも食べずに国保料・年金保険料を払うなど絶対におかしい。お腹をすかせた育ち盛りの子どもたちを目の前にして、この高すぎる国保料を払いきることは不可能。ない袖は振れません。だから滞納が起きるのです。

 

2.    都道府県単位化で国保料は安くならないし、納付金でさらに高くなる可能性もある

では、国保都道府県単位化でこの高すぎる国保料は安くなるのでしょうか。

都道府県単位化の議論にあたり全国知事会の問題意識はこの高すぎる国保料でした。昨年夏には知事会から「少なくとも協会けんぽ並みの保険料とするための1兆円の投入を」との要望が出されましたが、結局は3400億円のみとなりました。

厚生労働省は3400億円投入で一人1万円の財政効果があると強調していますが、3400億円は現在の全国の市区町村による一般会計法定外繰入3900億円よりも少ない。つまり、現在の一般会計法定外繰入は全額そのまま維持しないと効果はでないということになります。

さらに、3400億円のうちの今年度から投入する1700億円によって低所得者の保険料が安くなるわけではないと指摘せざるを得ません。なぜならば、昨年から実施の5割・2割軽減の対象世帯拡大という形で投入された500億円のように、直接低所得者の保険料が安くなるよう投入するのではなく、政令軽減世帯の割合によって交付するという方法では、市町村がその収入を現在の赤字補てんに投入したり、収入による国保会計の黒字分を都道府県単位化以降の納付金100%完納のための基金をさらに大きく積み上げる可能性があるからです。

もうひとつの後期高齢者支援金の全面報酬制導入による1700億円ですがまず2000億円の財政安定化基金を増設し、平成30年度からは1700億円の約半分は国の財政調整交付金に投入されます。交付金の割合はこれまでと同じ、今まで交付金に高額療養費の国庫負担分を肩代わりさせていた部分を埋めるだけの話ですからこれを財政効果といえるのでしょうか。

さらに、残り半分は「保険者努力支援制度」を創設して医療費適正化や保険料(税)収納率アップなどに努力した市区町村に交付するとされています。資格証明書発行や滞納処分に力をいれれば交付するというお金になります。後で述べますが、保険料収納率アップのためにいま市区町村が何をしてるのか、差押えの実態は、脅しと違法行為そのものです。それを後押しするようなことになるのではないかと危惧しています。

 さらに「分賦金方式」、法案上は「納付金」と変更されたこの市町村から都道府県への保険料上納方式ですが、これにより保険料がさらに高騰する可能性があることも指摘せざるを得ません。納付金とは、都道府県が都道府県内の1年間の医療給付費から公費などの収入額を引いた必要保険料額を、被保険者数・医療費実績・所得水準での按分により市町村に割り振るもので、市町村は都道府県への100%納付が義務付けられます。つまり市町村から都道府県への「年貢」のようなものです。

 

全国の平成25年度平均収納率は約90%で10%足りません。では都道府県に100%納付をするために市区町村はどう動くでしょうか。考えられるのは4つです。

@   一般会計法定外繰り入れで埋める。現在実施している自治体であれば実施する可能性がありますが、今まで以上に繰り入れる必要があります。

A   市町村の基金で穴埋めをする。現在全国で3000億円ほど積み上げられていますが、基金はいずれ底をつくので、基金を維持しようとすれば、納付金以上の保険料収入を得てさらに積み上げるしかありません。

B   新しい都道府県財政安定化基金から借りる。借りれば当然返済しなければならず、次年度保険料値上げの要因となります。

C   納付金よりかなり割増しの賦課総額にして保険料を計算し、9割の収納率でも納付金100%になるようにする。計算上は11.1%割増となります。当然保険料はいまよりかなり高くなります。

 

介護保険制度での経験から、市町村は財政安定化基金から借りるのではなく、収納率90%で納付金100%を超える保険料を設定する可能性が一番高いのではないでしょうか。

また、国保の都道府県化で市町村会計が大きく変わります。時間的に詳しくは申せませんが、簡単に言うと大都市国保はさまざまな要因でこれまで会計が大変でしたが、財政安定化共同事業の交付金などさまざまな収入が入ってくるようになります。一方小規模自治体国保は独自の保険事業などの努力により医療費水準を押さえ保険料収納もよく、その結果黒字会計で推移してきたわけですが、今後は困難になっていくことが予想されます。

 

3.    自治体は保険料回収のために住民を脅し違法行為を行っている

昨年朝日新聞で報道され116日の参議院厚生労働委員会で日本共産党小池晃議員から質問があった群馬県前橋市の差押え、私たちが把握しているだけでも年金や給与の全額差押え、差押えのため持ち家が売却できず結局強制競売され自己破産したケース、児童扶養手当の差押え、生活保護費の差押えなど違法行為が行われています。

山口市では、納付相談も納付もしてきた滞納者に対して、夜間営業中の客がいる飲食店に突然10人ほどの市の職員が押しかけ家宅捜索をしたり、店主の財布の中から現金を差し押さえるという事案がいくつも起きており、そのことにより仕入れもできない、営業も続けられないという状況に陥っているケースもあることを把握しています。

また、多くの道府県に設置されている「債権回収機構」などでは住民の納付相談に一切応じないケースが多々あります。

資料Cをご覧ください。平成25年度の国保滞納世帯に対する差押えデータです。厚生労働省からいただいたデータで作成したものです。大阪の各市町村のデータでみると、大阪市は滞納世帯に対する延べ差押え数は1761件、対滞納世帯差押え率は1.7%です。大阪府内の他の自治体の差押え率も2ケタをこえるものはありません。一方、群馬県前橋市の差押え数は8086件、差押率はなんと87.4%。加入世帯は前橋市5万4千世帯、大阪市48万世帯で約9倍、一方、差押え数は前橋市が41倍、率は51倍です。大阪市は2009年以降、独自に債権回収室も設置し財産調査や滞納処分にも力を入れている自治体ですが、私たち大阪社保協は滞納処分問題について数年にわたり情報公開で差押調書を全公開させ分析したうえで、何度も何度も話し合い「法令を守って行政執行を」と強くお願いし、大阪市はそれに応え法令順守の姿勢を守っています。その結果が差押率1.7%であり、前橋市の数字は違法行為をしない限りできないのではないかと思っています。

11月6日の厚労委員会の小池議員の質問に対して塩崎厚労大臣は「ぬくもりをもった行政をやるべく徹底する」との答弁をされましたが、いま全国の自治体がやっていることはとてもそうした状況ではないし、差押禁止財産を差押えるという違法行為がまかり通っています。

塩崎厚労大臣が答弁された「ぬくもりをもった行政」とは、税や社会保険料の滞納状況からその世帯のくらしの困難さを察知し、自治体が行政の専門家として相談に乗りながら解決をしていく、商売や生活を成り立たせていくということではないでしょうか。

最後に、低所得者が圧倒的多数である国保加入者の願いは、「くらしを成り立たせ、払うことのできる妥当な保険料で、安心して受診できる公的医療制度」です。加入者は保険料を払うためにくらし、働いているのではありません。

そういう点からも貧困をさらに拡大する危険性のある都道府県単位化に反対する意見陳述を終わります。

 

612日、大阪市国保よくする実行委員会との共催で「国保よくする地域団体代表者会議」開催。

 上記国会情勢から「国保都道府県単位化」は必至の状況となっています。大阪社保協は大阪市国保をよくす実行委員会との共催で「国保よくする地域団体代表者会議」を開催し、@国保都道府県単位化で何が起きるのかA6月から動き出す大阪府域地方税回収機構とはなにか、の2点での学習と活動交流を行う予定です。大阪府全域からぜひご参加下ください。

 

国保よくする地域団体代表者会議

★日時  2015612日(金)午後6時半〜8時半

★会場  大商連会館3階大会議室

★内容  □学習

@国保都道府県単位化で何が起きるのか

A6月から動き出す大阪府域地方税回収機構とはなにか

講師  大阪社保協 寺内順子事務局長

     □活動交流

★参加費 無料

★主催  大阪社保協・大阪市国保をよくする実行委員会

 

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2015年度第一回幹事会のご案内

1.日時 2015516()午後2時〜5時

2.場所 国労会館2階会議室

3.議題/@2015年度自治体キャラバン行動について

A国保都道府県単位化問題

B大阪府内全通所介護事業所アンケートの取り組み等

Bその他