大阪社保協FAX通信   1047号 2013.8.5

 

今日から日下部雅喜氏の投稿「社会保障国民会議報告書を斬る」を掲載します。

82日に公表された社会保障制度改革国民会議報告案について、大阪社保協介護保険対策委員の日下部雅喜氏から介護保険に関わる部分についての分析について投稿をいただきましたので、本日より連載します。(太ゴシック部分は大阪社保協で入れました)

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社会保障国民会議報告を斬る(第一回)

 

82日の第19回社会保障制度改革国民会議でやっと「各論」部分(少子化対策分野、医療・介護分野、年金分野)の案が公表された。

729日の第18回会議で公表された「総論」部分と合わせ、政府が講じるべき社会保障改革の方向性が示されたことになる。あとは85日の国民会議での報告書了承、86日に安倍首相へも提出という段取りと報じられている。(一部新聞は、社会保障改革推進法の「法施行後1年以内の法的措置」として、821日までに「改革プログラム法案」の大綱閣議決定を報じているが現時点では確認できない)

ようやく公表された各論報告書案の中から介護保険制度にかかわる部分を分析してみた。

 

★その1 要支援者の保険給付外し

国民会議報告書案の中で介護保険の要支援者については、

「地域支援事業については、地域包括ケアの一翼を担うにふさわしい質を備えた効率的な事業(地域包括推進事業(仮称))として再構築するとともに、要支援者に対する介護予防給付について、市町村が地域の実情に応じ、住民主体の取組等を積極的に活用しながら柔軟かつ効率的にサービスを提供できるよう、受け皿を確保しながら新たな地域包括推進事業(仮称)に段階的に移行させていくべきである。」

と表現された。

@現行の地域支援事業を「地域包括推進事業(仮称)」に再編

A要支援者に対する予防給付は地域包括推進事業(仮称)に段階的に移行させていく

というものである。

目新しいと言えば、地域支援事業を地域包括推進事業(仮称)に再編するという点である。

2011年の介護保険法「改正」で地域支援事業の中に「介護予防・日常生活支援総合事業」を設け、要支援者を予防給付から移行させる受け皿としたばかりである。しかも、「仮称」であっても具体的な事業名まで登場したこの地域包括推進事業(仮称)なるものは、厚生労働省の社会保障審議会・介護保険部会で提案もされたことのない代物であり、この国民会議の「頭ごなし」のものである。

国民会議報告書案は、医療・介護分野の改革の中で「医療・介護サービスの提供体制改革」として、「医療から介護へ」、「病院・施設から地域・在宅へ」という流れを本気で進めようとすれば、医療の見直しと介護の見直しは、文字どおり一体となって行わなければならない、としている。

具体的には、高度急性期医療から始まる医療を「川上」、在宅介護を「川下」と表現し、患者(要介護者)の早期退院、在宅化を徹底して推進しようというのだ。費用のかかる「川上」から安上がりの「川下」へ早く流れていくよう、在宅医療・在宅介護の体制を整えようというのである。

報告書案では「川上」の医療病床機能の再編とセットで「川下」の退院患者受け入れ体制描き、この中に「地域包括ケアシステム」を位置づけている。

そして、介護サービスについては、24 時間の定期巡回・随時対応サービスや小規模多機能型サービスの普及など、退院患者の受け皿となりうる重度者向けの基盤整備とともに、要支援者・軽度者については、保険給付からの追い出しを図ろうというのである。

「介護保険給付と地域支援事業の在り方を見直すべきである」として登場させたのが、地域包括推進事業(仮称)である。「市町村が地域の実情に応じ、住民主体の取組等を積極的に活用しながら柔軟かつ効率的」に行うという地域包括推進事業(仮称)は、現行の予防給付に代わって要支援者の受け皿になりうるだろうか。

断じて否である。

第一に、その内容の無責任さである。「柔軟かつ効率的」と言えば聞こえはいいが、柔軟=人員設備基準なし、効率的=安上がりということに他ならない。現行の地域支援事業も財源の上限が保険給付の3%以内とされていることから、介護保険の指定サービスである予防給付のサービスとは比べようのない劣悪で低水準なものとなるであろう。

第二に、この事業そのものが本当に全国に普及するかどうか疑わしいことである。市町村が「地域の実情に応じ」とは、基本的に市町村任せである。また、「住民主体の取組の積極的活用」とは、地域住民の互助などボランティア、NPOなどに委ねるということである。現行の「介護予防・日常生活支援総合事業」は、市町村判断で実施とされたこともあり、2013年3月時点で全国わずか37自治体でしか実施されていないという惨憺たる状況である。これを法で義務化したとしても、介護保険のヘルパーやデイサービスに代わる事業を担うボランティアなど「住民主体の取組」を市町村が育成できるかどうかは、はなはだ心もとない。とうよりどう考えても不可能であろう。

結局のところ、これが強行されれば、受け皿があろうがなかろうが、要支援者の予防給付を各自治体が取り上げていくということになる危険性が極めて高い。国民会議報告書案は「受け皿を確保しながら新たな地域包括推進事業(仮称)に段階的に移行させていく」などとしているが、現実には大多数の市町村は住民主体の取組もまともに組織できず、申し訳程度の「ボランティア事業」「民間活用」などのメニューを作ったことを口実に片っ端から要支援者を介護保険給付から追い出していくことになろう。

国民会議報告書案は、「平成27 年度からの第6 期以降の介護保険事業計画を「地域包括ケア計画」と位置づけ、各種の取組を進めていくべき」と市町村に何としても実施させるようはっぱをかけている。

要支援者のサービス取り上げ問題は、断じて具体化させてはならない改悪内容である。

要支援者の予防給付問題は、介護保険法「改正」のなかでどのように規定されるか、内容・対象など政令・省令・告示、通知などでどのようになるか。さらに現場である各市町村の第6期事業計画でどのようになるか、まさにこれから1年半近い政府・厚生労働省、国会、地方を通じての一大攻防戦となるであろう。

 

★その2 利用者負担増

国民会議報告書案は、「利用者負担について(前略)利用者負担等の見直しが必要である。介護保険制度では利用者負担割合が所得水準に関係なく一律であるが、制度の持続可能性や公平性の視点から、一定以上の所得のある利用者負担は、引き上げるべきである。その際、介護保険は医療保険と異なり、利用者自身が利用するサービスの量を決定しやすいことなど、医療保険との相違点に留意する必要がある。」と記述した。

現行の介護保険の利用者1割負担は、高額介護サービス費を除けばほとんど低所得者軽減制度がない中では、低所得の年金生活者には大きくのしかかり、サービス利用を抑制する結果となっている。これをさらに「一定の所得のある」場合は、引き上げるというのである。この「一定の所得」とはどのようなものなのか。

かつての介護保険見直しの議論の中では、当初「高所得の利用者負担見直し」でスタートした。ところが、厚生労働省が201011月社会保障審議会介護保険部会で示した試算では「合計所得200万円以上の自己負担2割」というものであった。とても「高所得」とはいえない所得を対象としたため、その後は「一定の所得」と言い替えてきた経過がある。後期高齢者医療では「現役並み所得」として「収入383万円以上」は3割負担であるが、国民会議報告書案は「一定の所得」というだけでその水準は一切示していない。また、負担割合についても言及していない。

国民会議の議論の中で出されていた「医療との整合性」(現役並み3割、70歳〜74歳は本則2割)については、報告書案では、「医療保険との相違点に留意」と表現した。機械的な整合性論の立場はとらなかったようだが、介護保険は、「利用者自身が利用するサービス量を決定しやすい」という記述は微妙である。低所得の人は、必要なサービス利用が制約されているというのが実態だが、給付抑制論者から言えば「1割負担にとどめると利用者がサービス量を決めやすい介護保険では給付が抑制できないので引き上げの対象を拡大すべきでだ」という口実にされかねない。

国民会議報告書案は、引き上げの時期については明記していないが、82日の会議後の記者会見で清家篤会長(慶応義塾長)は「少なくとも中長期の話ではない」と述べ、短期的に実行すべきとの考えを示した。

短期とは、次期介護報酬改定・第6期事業計画期間(2015年度)を意味することは明らかである。

この負担割合引き上げは、介護保険法「改正」を必要とすることから、今後、厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会に検討が引き継がれ、来年1月からの通常国会での法「改正」をめざし、年末までの政府厚労省内での検討が一つの山場となる。負担割合の引き上げを阻止するための関係者が一致した運動が求められている。

 

★その3 低所得の施設利用者の負担増

国民会議報告書案は、利用者負担割合引き上げに続いて、施設入所の場合には、世帯の課税状況や課税対象の所得(フロー)を勘案して、利用者負担となる居住費や食費について補足給付により助成を受けることとなっている。その結果、保有する居住用資産や預貯金が保全されることとなる可能性があり、世代内の公平の確保の観点から、補足給付に当たっては資産(ストック)も勘案すべきである。また、低所得と認定する所得や世帯のとらえ方について、遺族年金等の非課税年金や世帯分離された配偶者の所得等を勘案するよう、見直すべきであると書き立てた。

2005年の介護保険改悪により、それまで保険給付の対象としていた介護保険施設(特養、老健、療養型)利用者と短期入所使用者の食費・部屋代を自己負担とした。しかし、低所得(住民税非課税世帯)の利用者については、軽減措置(補足給付)を行うこととした。

例えば、食費は、13食で基準額は1380円(実際はこれ以上)が、非課税世帯の利用者は13650円、非課税世帯で年金80万円以下であれば390円となる。これによって、低年金者でも施設に入所することができている。

国民会議報告書案では、低所得であっても「資産」を勘案して軽減の対象外とするべきとしているのである。高齢者が保有しているささやかな自宅、長年かかって蓄えたわずかな老後の備えの預貯金が「保全」されるのがケシカランというのである!

施設利用者の圧倒的多数は重度の要介護者である。年金も少なく低所得で重度の要介護状態となった人たちに対し、何と冷たい仕打ちであろうか。自宅も売り払い、預貯金も使い果たさないと介護保険施設で暮らすことは許さないという極悪非道な改悪案である。

もし、補足給付対象から外されれば、特養利用者であっても個室であれば月10数万円の食費・部屋代徴収となり介護サービス利用料と合わせれば15万円程度の自己負担となり、少ない年金では到底負担できない額となる。

さらに重大なことに、報告書案は、「低所得と認定する所得や世帯のとらえ方」についてかつてない踏み込んだ見解を示していることである。

現行税制上は、所得の対象とならない遺族年金等について、所得に含めるように提言し、さらに「世帯分離前の配偶者の所得」までその対象にするというのである。特養入所者であれば、夫婦であっても「転居」となり、住民基本台帳上では自動的に別世帯である。また、住所が同一であっても生計が別であれば住民票は別個の世帯となる。これは、憲法が国民に保障した「居住の自由」にかかわることである。これをわざわざ無視し、所得を課題に評価し低所得者の範囲から除外しようとするのは、許しがたい暴挙である。

これらの改悪内容は、必ずしも介護保険法の規定を変更しないでも厚生労働省令・告示の改定で実施できることを以前厚労省の担当課の職員は認めていた。したがってこの低所得の施設利用者負担増は、場合によっては、介護保険法「改正」前にも強行される可能性もゼロでない。また、見方を変えれば国会で介護保険法「改正」が強行されたとしても、厚生労働省内部での省令・告示や予算案の段階(もっとも遅ければ20151月頃まで)までの争点となりうる。

もっとも困難な人々を情け容赦なく負担増攻撃にターゲットにするこの改悪を許さないため、施設関係者をはじめ多くの人々の共同した反対運動が急務である。

つづく・・・                   (分析 日下部雅喜)

 

825日「大阪社会保障学校」申込はまだ24!朝日訴訟、そして枚方生活保護自動車保有訴訟を学ばないなんてもったいない!!

 仕事は今週いっぱいで、来週は夏休みに入られる方も多くおられるとおもいます。盆があけると大阪社会保障学校です。今日は午前中の講演についてお知らせします。

8月からの生活保護基準引下げで、いま「憲法25条」が問われています。

 朝日訴訟とは、重症の結核患者として国立岡山療養所で生活保護受給をしながら入院治療をしていた朝日茂さん(44歳)が1956年(昭和31年)8月から実兄の仕送り(毎月1500円)がされることになったのを理由に、それまでの生活扶助月600円の支給打ち切り、さらに医療扶助の自己負担金として月900円の納付を命ずるという津山市福祉事務所長の決定の取り消しを求めた10年間の行政訴訟です。

そして、朝日茂さんは「「憲法25条にうたわれている『すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。』という条文は、何のためにあるのであろう。いつ、どんなときに、この現行憲法の民主的条項は、国民の生活に直結したものとして生かされるのだろうか。」「私の怒りは、決して私一人だけのものではない。多くの人びと、低い賃金で酷使されている労働者の人びと、失業した人びと、貧しい農漁村の人びと、この人びとはみんな私と同じように怒っているはずだ。」「生活と権利を守ることは、口先だけでいくらいっても守れるものではないのだ。たたかうよりほかに、私たちの生きる道はないのだ」とたたかいを決意します。

★講師は裁判継承者の朝日健二さん

朝日訴訟は1960年に第一審の東京地裁で勝訴、その後1963年に第二審東京高裁で逆転敗訴判決となります。最高裁に上告するのですが、朝日茂さんのいのちのともしびがまさに消えようとしていた1964年、日本患者同盟の若き専従であった小林健二さん君子さん夫妻が養子となり裁判を継承されました。そして役所に届をだしたまさにその日に朝日茂さんは死去されたのです。

今回の社保学校の講師は養子となられ裁判を継承された健二さんです。朝日訴訟のたたかいをいま生で感じていただきたいと思います。

★現代の生活保護のたたかいを枚方・交野生健会の森田さんから

そして特別報告は5月に勝訴した「枚方生活保護自動車保有訴訟」です。人としてのあたりまえの生活をしたいと願うことが、生活保護を利用しているというだけでなぜそんなに制限されなければならないのかという佐藤さんの叫びにも似た訴えが今回認められ、そしてさらにはその自動車も通院だけでなくも外出などにも利用する方が自立につながるという判決は画期的です。ぜひおききくださいね。

2013年度大阪社会保障学校

 社会保障制度を自己責任と助け合いの制度にしようという動きのもとで、今一度生活保護と国民皆保険制度をしっかりと学びなおすために2年ぶりに大阪社会保障学校を企画しました。

今年は「権利は闘うものの手にある」と語った朝日茂さんの生誕100周年にあたります。生活保護も国民皆保険も、国民がたたかいの中で勝ち取り、そして前進させてきたものであることをしっかりと学びこれからのたたかいの確信にしましょう。

 

★と き 2013825日(日)

★ところ 大阪民医連

(堺筋本町9番・4番出口上がり北へすぐダイコクドラック横創建ビル2F)

★企画  10時〜16

午前 特別報告「枚方生活保護自動車保有裁判をたたかって」

        森田みち子さん(枚方交野生健会事務局長)

   記念講演@「朝日茂生誕100年に当たって

〜朝日訴訟を学び生活保護のいまを考える」

朝日健二さん(朝日訴訟承継人・NPO法人朝日訴訟の会理事)

午後 記念講演A「日本の皆保険制度は如何につくられたか

〜その歴史と世界的評価を学び、TPPの危険性を学ぶ」

        長友薫輝さん(三重短期大学教授) 

              

参加費・資料代 1000円          

規模 150

主催 大阪社会保障推進協議会 

Tel06-6354-8662 fax06-6357-0846

資料印刷の関係上、事前にfaxでお申し込みください。

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2013年度大阪社会保障学校に参加します。

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