大阪社保協FAX通信   1011号 2012.6.15                                        

 

生活保護医療扶助に「医療機関等登録制度」導入!?

橋下市長の「西成特区構想」、ねらいは大阪府市解体(大阪府保険医協会・渡邊事務局次長 寄稿)

いま、生活保護では様々な動きが起きています。大阪・西成区でいま何が行われようとしているのか。大阪府保険医協会・渡邊征二事務局次長より寄稿していただきましたので、以下掲載いたします。

 

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生活保護医療扶助に「医療機関等登録制度」導入!?

橋下市長の「西成特区構想」、ねらいは大阪府市解体

 

西成区は人口約12万人で人口密度が高く工業地帯や住宅地が混在した町で、「あいりん」といわれる地域は日雇い労働者の流入が多く、近年は仕事の減少と高齢化、生活保護率の増大が課題といわれています。生活保護率が世帯で34.24%(2万5396世帯)、人員で24.49%(2万8196人)と突出して高く(2011年3月末現在)、平松邦夫前市長の時代から生活保護の「不正受給」等を理由に「適正化推進プロジェクト」が進められています。今年度も大阪市は「警察OBを含む不正受給調査選任チーム」を全市に設置する方針です。

 

◆受診抑制につながる「医療機関等登録制度」

そのような全市あげての「適正化」の動きの中で、西成区が具体化を進めている「医療機関等登録制度」は、西成区の生活保護受給者が受診できる病院や診療所を診療科目ごとに1ヶ所、薬局も1ヶ所に限定し、「医療機関等登録証」に記載するというものです。「登録証」の「受診の注意」には「専門医への受診・検査等が必要な場合には、紹介状等を受け取り、担当ケースワーカーへ相談してください」と書かれています。生活保護医療券に加えて「登録証」に記載があるかどうかが受診の条件になり、患者の受診抑制につながると同時に、第一線医療を担う医師の裁量権を奪うことになります。西成区はこの制度を今年8月から試行実施するとしていますが、すでに「登録証」は一部の生保受給者に5月末に送付され、「処方箋を登録証記載の薬局に持っていったが、薬がない」など、現場では混乱が起こっています。

 

◆明らかな憲法違反

そもそもの発端は、橋下市長が今年1月8日に大阪の全局長、西成区の西嶋区長はじめ全区長に「生活保護受給者の診療で認証制度を使えないか」「特に西成区でやってみたい」というメールを送り、検討を求めたことです。橋下氏は2月20日の市長会見で「診療タダだからといって、めたらめっぽうの診療を受けないように」「重複受診を排除」と強調し、「不正な診療を繰り返す医療機関を排除する」と発言しています。「医療扶助をねらって不適切な診療を繰り返す医療機関を排除する」と一部の悪質な事例を一般化して、指定医療機関への個別指導やレセプト点検が強化されようとしています。

生活保護受給者の医療を「頻回受診」「過剰診療」と決め付け、「生保患者は受診を制限しても構わない」というやり方で「適正化」を図るものであり、西成区の生活保護患者を特別扱いしてフリーアクセスを制限することは明らかに人権侵害です。さらに、全国民に受診の権利を保障する国民皆保険制度に反し、生活保護法の理念や国民の幸福追求権、法の下の平等、生存権を保障した憲法に違反するものです。

 

◆「西成特区構想」に法的根拠なし

そもそも橋下氏が提唱している「西成特区構想」は、西嶋西成区長が「特区構想ということだが、法律上の特区ということではなく、事実上の特区的な発想で進めていく」(2月15日「西成特区構想プロジェクト会議」)と発言している通り、法的根拠はまったくありません。また、「登録制度」について当局は、「生活保護医療扶助運営要領」の条項で「生活保護制度は、国民の最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これをこえないものでなければならない」とあるので法的に問題はないと主張していますが、通知の中身を都合よく解釈しているにすぎません。

 

◆橋下市長のねらいは「大阪都構想」推進

橋下市長は、西成区特有の「貧困と格差」問題の解決を「生活保護の適正化」に大きくすりかえて、生活保護受給者を敵視したこれらの制度改革を、国の生活保護制度改革や医療費抑制策と合致して形で進めています。また、市当局は「なぜ西成だけなのか」という疑問に対して、「将来的な全地域での実施を目指して、より限定された地区において試行実施を行うことは、行政の裁量」「全区に先駆けてまず西成区」と明言しています。このような橋下氏のやり方が全国に波及する恐れがあり、社会保障のベースとなる生活保護制度を突破口に、他の制度も改悪される危険性があります。

橋下氏や大阪維新の会は解散総選挙をにらんで国政進出への活動を本格化させていますが、橋下氏の真のねらいは大阪府市を解体して道州制の下地を作る「大阪都構想」の推進であり、その過程で西成特区構想が打ち出されています。

 

◆格差・貧困問題への抜本対策こそ必要

厚生労働省は今年3月末現在の全国の生活保護受給者が210万を超え、生活保護の給付総額は今年度3兆7000億円を超える見通しと発表しました。国や厚労省は、親族に生活援助が可能かどうかを確かめる扶養照会の強化や、「就業支援の充実」の名のもとに「自立」を促し、受給要件を厳しくする制度改正を検討しています。しかし、生活保護急増の背景には低賃金や雇用破壊、後退する一方の医療や年金などの社会保障改悪、不十分な高齢者施策という根本問題があり、格差・貧困問題への抜本的な対策を打つことが必要です。そして、生活保護水準以下の暮らしを余儀無くされている人々に対して給付を行うこと、補捉率を引き上げることこそが国の施策として求められています。

 

今年度「妊婦検診」実施状況明らかに〜全国レベルは大阪市、能勢町、東大阪市、藤井寺市、大阪狭山市、河南町、千早赤阪村、堺市。相変わらず低い大阪の制度。

現在、大阪社保協では自治体キャラバン行動にむけて大阪市内全市町村アンケート集約作業に入っています。「妊婦検診」実施状況が出来あがりましたので掲載します。

全国平均は10万円弱ですが、大阪では全国レベルと言うところが若干増えましたが、やはり不充分で、本気になって「子育て支援」を考えているとは言い難い状況にあることは変わりがありません。

 

大阪府内市町村妊婦検診実施状況 大阪社保協調査201205現在

 

 

2010年度

2011年度

2012年度(予算ペース)

回数

補助金額
(1
人当)

回数

補助金額
(1
人当)

回数

補助金額
(1
人当)

検査項目指定

利用者数(実数)

利用者数(のべ)

1

大阪市

14

55,250

14

57,540

14

99,810

 

291,360

2

豊中市

14

39,680

14

52,280

14

61,280

3,650

46,329

3

池田市

14

42,000

14

47,000

14

54,000

950

13,300

4

豊能町

14

75,000

14

75,000

14

75,000

90

1,260

5

能勢町

14

114,740

14

116,840

14

116,840

 

 

6

箕面市

14

47,000

14

52,000

14

53,500

1,060

14,840

7

高槻市

14

51,000

14

69,000

14

69,000

3,400

40,900

8

島本町

14

47,700

14

52,660

14

57,960

270

3,780

9

茨木市

14

51,000

14

56,000

14

56,000

2,900

36,700

10

吹田市

14

60,590

14

60,590

14

62,600

3,135

37,706

11

摂津市

14

57,000

14

60,000

14

60,000

900

10,000

12

守口市

14

35,000

14

49,000

14

63,000

 

 

13

門真市

14

35,000

14

62,290

14

62,290

1,162

16,268

14

大東市

14

36,000

14

60,200

14

60,200

1,140

15,960

15

四條畷市

14

40,000

14

55,000

14

55,000

 

 

16

寝屋川市

14

40,000

14

55,000

14

55,000

2,000

28,000

17

枚方市

14

40,000

14

60,000

14

60,000

3,600

42,840

18

交野市

14

35,000

14

55,000

14

65,000

968

8,190

19

東大阪市

14

55,000

14

100,000

14

100,000

 

 

20

八尾市

14

35,000

14

60,400

14

60,400

 

 

21

柏原市

14

37,800

14

50,590

14

60,400

600

8,400

22

松原市

14

45,480

14

51,770

14

65,580

980

13,720

23

羽曳野市

14

37,800

14

51,800

14

61,800

 

 

24

藤井寺市

14

37,500

14

51,500

14

100,000

850

6,450

25

大阪狭山市

14

49,700

14

58,710

14

116,840

510

7,156

26

富田林市

14

47,360

14

59,000

14

59,000

780

10,010

27

太子町

14

47,360

14

51,200

14

51,200

100

1,440

28

河南町

14

47,360

14

51,200

14

92,100

120

1,520

29

千早赤阪村

14

35,000

14

51,200

14

116,840

40

560

30

河内長野市

14

58,500

14

58,500

14

70,000

720

10,080

31

堺市

14

68,440

14

69,310

14

89,580

7,306

102,284

32

和泉市

14

35,000

14

51,290

14

61,790

1,750

22,050

33

高石市

14

35,000

14

35,000

14

53,390

850

7,000

34

泉大津市

14

42,000

14

42,000

14

53,390

 

 

35

忠岡町

14

35,000

14

44,290

14

53,390

180

2,520

36

岸和田市

14

49,000

14

53,390

14

58,690

1,900

26,600

37

貝塚市

14

49,015

14

53,390

14

53,390

880

11,690

38

泉佐野市

14

35,000

14

53,390

14

53,390

776

10,864

39

田尻町

14

49,000

14

53,390

14

74,590

105

1,470

40

熊取町

14

49,000

14

53,390

14

53,390

350

4,860

41

泉南市

14

35,000

14

51,290

14

53,390

585

7,500

42

阪南市

14

35,000

14

51,290

14

53,390

385

5,390

43

岬町

14

42,000

15

51,290

17

58,690

100

1,700

 

合計

14

46,378

14

57,069

14

67,700

 

45,092